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2007.11.17

第4回公開研究会報告

■日 時:2007年11月17日(土)13時〜18時
■場 所:福岡アジア美術館7階彫刻ラウンジ
■参加者:約60名
■テーマ:「ミュージアムにおけるコミュニケーション・デザイン
          〜放送とメディアリテラシー〜」
【第一部】パネル・ディスカッション「放送とメディアリテラシー」
 プレゼンテータ(1):増田朋和(KTNテレビ長崎)
 プレゼンテータ(2):佐藤紀子(RKB毎日放送)
 コメンテータ    :劉雪雁(国際通信経済研究所,メル・プラッツ運営メンバー)
【第二部】ワークショップ「ムービーカード」
 講 師   :宮原美佳(メディア・アーティスト)
        杉本達應(メディア・アーティスト)
 コメンテータ:林田真心子(元FBSアナウンサー,メル・プラッツ運営メンバー)

  ※敬称略

■概 要:

「福岡のみなさん、はじめまして」

今月の公開研究会は、オーガナイザーである水島久光さん(東海大学)のこの一言から始まりました。メル・プラッツが始動して4ヶ月、初めての地方開催です。その会場となったのは、近現代美術を通じたアジア交流に取り組んでいる、福岡アジア美術館。カフェが併設されている彫刻ラウンジに、この日、ライトピンクを基調とした素敵なコミュニケーション・スペースが出現しました。晩秋の冷え込みを忘れるような、おだやかな自然光が差し込む心地よい空間でした。


□第1部 パネル・ディスカッション「放送とメディアリテラシー」

まず、テレビ長崎が昨年度から実施しているメディアリテラシー実践プロジェクトの経過について、増田朋和さんが報告して下さいました。

<増田さんの報告要旨>
テレビ長崎では昨年度、日本民間放送連盟の支援を受け、夏休みに5日間の映像制作ワークショップを実施しました。中高生のグループが「長崎さるく博」をテーマに3分間の映像を制作する試みで、私たちは子どもたちの能力の高さに驚きました。このワークショップを通じて、幅広い世代、さまざまな団体のあいだで交流が生まれ、社内でも好評。「初心に返るきっかけになった」といった感想のほか、「テレビ長崎の特色になるかも」といった期待も高まりました。

しかしテレビ長崎は、民間の地方局。いったいどうやったら、こうした試みを継続していけるだろうかと思案しました。そこで今年度は、テレビ長崎の環境キャンペーン「チーム長崎」の一環として、これを実施することを提案しました。「チーム長崎」は地球温暖化防止の県民運動であり、その主役は子どもたちに他なりません。そこで、映像制作ワークショップという手法を通じて、子どもたちに地球温暖化とその防止策について理解してもらうことができないだろうか、と考えたわけです。つまり、メディアリテラシー実践プロジェクトを他の事業に組み込むことで、今年も継続することができたのです。

今年の成果としては、昨年よりも認知度が上がったことで、新しい連携や異種交流が実現できたということがあります。実践がスムーズに展開することができたのは、いい意味でも悪い意味でも、2年目の“慣れ”がありました。実施時期の設定を誤って参加者が少なかったこと、地球温暖化というテーマが難しかったことなど、反省点も少なくありません。

実践を継続することは容易ではありませんが、今後もメディアリテラシーと向き合い続けることによって、テレビ長崎は「循環型情報発信基地」として、特色ある地方局を目指していきたいと思います。

引き続いて、RKB毎日放送の佐藤紀子さんから、「アメリカにおけるメディアとリテラシー」と題する報告。昨年の7月から1年間、アメリカに研究留学をされた佐藤さんが見聞された、西海岸の放送局の現状とメディアリテラシーの取り組みについて話していただきました。

<佐藤さんの報告要旨>
全米のテレビ所有世帯のうち、7300万世帯(およそ66%)がケーブルテレビに加入しているのですが、テレビ視聴の90%以上が、ABC、CBS、NBC、Foxの四大ネットワークおよびその系列地方局であり、言い換えれば、ほとんどのチャンネルがあまり視聴されていません。

もうひとつ、興味深い数字があります。テレビ視聴とインターネット利用の関係ですが、ネットを利用していない人は、テレビを週21.4時間視聴しているのに対して、ネット利用者は週に12.3時間視聴しているそうです。このことは必ずしも、ネット利用者のテレビ離れを意味しているのではなく、乱暴にいえば、ネット利用者が週に9時間近くを、ストリーミングによるテレビ視聴に充てている可能性があることを示しています。じっさい、ネット利用者の70%が平日の仕事場で、80%が週末の自宅でストリーミングを利用しているそうです。ストリーミングによるテレビ視聴の拡大は、プライムタイム(ゴールデンタイム)の消滅をもたらしています。ストリーミングのプライムタイムは、AOLでは午後3時から5時、Verizonでは午後4時から7時。そこでABCは昨年の秋から、複数の人気ドラマをテレビ放送に先駆けてネット配信するようになりました。

こうしたことから、ネットワークに属していない独立局は、2009年に完了予定のデジタル化の影響も相まって、非常に厳しい現状に直面しています。

たとえば、サンフランシスコのKRONは、加盟料を支払うことができずネットワークから離脱し、独立局となりました。それでも“発生モノ”(事件・事故・災害など突発的に発生する出来事)の一次報道を続ける姿勢で、全米初の“ビデオジャーナリスト”方式を採用しました。記者・カメラマン・リポーター・編集マン(など)をひとりが兼担するというもので、外出先でパソコンを使って編集をおこない、インターネットを通じて会社に映像を送信します。したがってテープを一切使用しません。映像は最長で2分程度。平日で9時間の生放送を維持している反面、取材の一切をひとりで担っているので質の低下は否めません。一般からの映像提供も募っています。日本の放送局もこういう時代が来るのでしょうか。

ロサンゼルスでは、平日7時間のニュース番組を生放送しているKTLAに対して、“発生モノ”の一次報道をあきらめ、報道特集番組を軸に放送しているKCETという局があります。その代わりKCETでは、自局制作のドキュメンタリーをメディアリテラシー教育に活用するための提案をおこない、その教材の提供に力を入れています(KCETが加盟している教育系ネットワークPBSでは、たとえば、アルツハイマー病患者を取り上げたドキュメンタリードラマ「The Forgetting」のウェブサイトに、Teacher's Guideを掲載しています)。

http://www.pbs.org/theforgetting/resources/teachersguide.html

KRONやKCETの試みは、アメリカの放送が直面している危機を如実に示している一方、「放送局ができることは、まだある」という希望を感じるものでもあります。

おふたりの報告のあと、国際通信経済研究所の劉雪雁さんを交えて、ディスカッションがおこなわれました。 増田さんの報告に対しては、子どもたちが実践のなかで、自分の制作したものをどう見ているか、さらに何ができるかという「評価」をおこなう段階が重要であると、劉さんは指摘しました。「アメリカの放送をめぐる現状は、日本の放送局が数年後に直面する状況ではないでしょうか」と劉さんは続けます。アメリカにしても日本にしても、ますます厳しい環境のなかで、いかにメディアリテラシーの取り組みを継続していくかが課題。「媒体素養」という中国語には、メディアリテラシーという言葉の背後にある深みが表れているけれども、中国の放送局は生存競争があまりにも激しく、そこまで思い至らないのが実情だそうです。

佐藤さんの報告に対しては、参加者の方から、「番組を教材として提供することが、どうして日本では不可能なのか」という問いが投げられました。再放送を前提として制作されている教育番組の場合、教材提供が比較的容易なのは理解できるとして、それがドキュメンタリーでも可能なのはどうしてなのでしょうか。佐藤さんは「取材のときの仕組みが違う」と答えます。日本の場合、肖像権をめぐる問題が大きく、出演者と連絡がつかなくて再放送が叶わないということがあります。それに対してアメリカでは、撮影した映像の“あらゆる利用を承諾する”という主旨の念書を用意し、取材対象者にサインを求めるそうです。アメリカの放送局では、メディアリテラシーの取り組みはそれほどさかんではないものの、番組を再利用可能な資源として捉える意識が高いのです。 地域のなかで放送局の存在を示し、視聴者の声に耳を傾けるための“危機管理”として、メディアリテラシーが放送の現場で浸透しつつある一方、増田さんたちが取り組んでいるテレビ長崎の実践、佐藤さんが報告されたアメリカの現状は、それとは別の次元に“送り手のメディアリテラシー”が踏み出していることを示唆しているのではないでしょうか。


□第2部 ワークショップ「ムービーカード」

小一時間のコーヒーブレイクを挟んで、メディアアーティストの宮原美佳さんと杉本達應さんによるワークショップ。

参加者は6〜7人ずつ、5つのテーブルに分かれ、それぞれのグループにカード一式が配られます。すべてのカードには写真が印刷されています(いずれもサルに関する写真でした)。まずウォームアップとして、グループの一人だけが写真を見て、その内容を言葉で説明し、他の人たちはそれを絵に描いて再現するという遊びをしました。これを全員が繰り返します。「ああっ…」という嘆息があちこちから聞こえるなか、「おおっ!」という歓声も。 そして次は、いったんすべてのカードに目を通したあと、裏返しにしてかきまぜます。一人が2枚のカードをめくって、ふたつの写真に何らかの共通点を見いだし、即興で考えた物語をみんなに披露します。これもグループの全員が繰り返します。話が面白ければ拍手。この遊びを通じて初対面の参加者どうしもすぐに打ち解け、ビジュアルを通じたコミュニケーションの可能性を、いつの間にか肌で感じていたのでした。

さて、ここからがワークショップの本番。ムービーカードはその名の通り、映像を紙のカードにして並び替えることで、タンジブル(触感的)に編集することができる道具です。数秒から十数秒の映像がそれぞれ1枚のカードになっており、カードのバーコードをパソコンで読み取ると、すぐに編集された映像を見ることができます。 愛着の湧いたカードを各自2枚ずつ選び、残ったカードは没収。12枚もしくは14枚のカードのうち、複数のカードを組み合わせて物語(=映像)をつくります。大半の映像に登場するのは、調教を受けているニホンザルのようですが、組み合わせが違うと1枚のカードの意味も変わってきます。「カードに備わっていない意味が生まれてくるかどうか、じっと眺めてみて下さい」と宮原さんは言います。

テレビ長崎のワークショップに参加した子どもたちとは違って(笑)、思慮深い大人たちの話し合いは淡々としていて、まったりとした時間が流れていきます。ところが、カードのバーコードがパソコンに読み取られ、プラズマディスプレイで上映されるたび、「おおっ」という歓声とともに、拍手が起こりました。

そして参加者たちは最後に、物語をつくりあげていったプロセスを振り返りました。カードを並び替えて制作した映像は、絵コンテとしてプリントアウトされます。どうしてそういうふうに意見がまとまっていったのかという分析を、他のグループの人たちにも分かるように、その絵コンテに記入していきました(通常の映像制作のプロセスとは逆の順番です)。「こういうカードがあれば、もっといい物語ができたのに……」といった声が聞こえてきました。

ワークショップはこれで終了。元FBSアナウンサーの林田真心子さんを交えて、ムービーカードの意義についてディスカッションをおこないました。参加者からは、「通常の映像制作の現場とは違い、価値観の違う人たちが集まって、ひとつの表現を生み出すというのは難しい」、「グループのコミュニケーションが本当に重要」といった声。放送局で働いている方たちからは、「日ごろの仕事が頭に浮かんできて、いったん気持ちが入ると、つい『アップの画が欲しい!』と思ってしまう」、「テレビはたくさんの人でつくるから面白い。カメラマンや編集マンから、ディレクターが気づかなかった見方が示されることがある。そういう気づきが、このワークショップのなかにあったような気がする」、「いつもやっている仕事のプロセスより難しかった。普通は編集の段階で物語が出来ている。今回の場合は、既成概念がまったく無い」といった意見が出ました。

林田さんは、「『放送とメディアリテラシー』というテーマに引きつけると、これに近いことをテレビの現場では毎日やっている。あらかじめ物語が決まっていて、後で『画が足りない!』ということもある」という一方で、次のようにも指摘しました。「宮原さんと杉本さんは、いったい何のための映像をつくるのかということを言わなかった。そのユルさがポイント。テレビの映像をつくることが前提だと、放送局の人の目が真っ先に変わるのに対して、今回のユルさには他にもいろんなものが入り込む余地がある。編集機で映像を扱うのとは触感が違う。今までにない感覚で、今日のグループワークを通じてたくさんのことに気づいたはずだけど、それが何だかすぐには分からない」。メル・プラッツは当初、「放送」や「映像」といった概念を解体するためのケーススタディとして、このワークショップを設定しましたが、じっさいにやってみると、容易には言語化できない気づきがあちこちで創発し、その面白さを参加者のあいだで共有することができたように思います。

□おわりに

最後に水島さんが、「メル・プラッツでこれからやっていくことのための財産にしていきたい。弁当箱に詰める方法ではなくて、たまには弁当箱からつくってみることが大事」と締めくくりました。「放送とメディアリテラシー」と「ミュージアムにおけるコミュニケーション・デザイン」という、この研究会が提示したふたつの異なる地平がうまく交錯することができたのは、福岡アジア美術館の開放的な空間と、そして何よりも、私たちの初めての試みに快く参加して下さったみなさんのおかげでした。ありがとうございました!(報告者:飯田豊/メル・プラッツ運営メンバー)




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